静謐。だがそこから放たれる存在感は強い。
「杢目金」という言葉や技法を知らなくても、玄妙な色合いと模様が醸し出す風景に惹きつけられ、目が離せなくなる。それが佐故龍平の作品だ。
その源にはどんな Sprits が息づいているのだろうか。
金属という素材に見いだした工芸作家への道
20余年前、佐故龍平は広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科に籍をおいていたが、大学で様々な工芸を学んでも、自分がなにをしたいのか、どういうものを創りたいのか、全くわからない状態だったという。
そんなある日、金属加工の授業を受けたことで転機が訪れる。
「最初は金鎚作ったりとごく基礎的なことをやるんですが、それが自分でも意外なほど面白くて楽しくて」
元々バイクが好きで自ら改造したりもしていたので、金属加工にはなじみがあったというが、実はほかにも理由があると、はにかんだ笑みとともに教えてくれた。
「なんというか…僕は昔から器用なんですね。それでなんでもすぐにそれなりのものが作れてしまう。すぐできてしまうから夢中になれるものがなかなかなかった。でも金属という素材は手強い。そして制作にとにかく時間がかかる。器用なだけじゃできないのが金工なんです」
その困難さゆえにおもしろさを感じ、はまってしまったのだという。
数年後、大学院を卒業する頃には、金工を続けていくことは佐故にとってアイデンティティとなる。
最初に伝統工芸展で受賞したのが26歳の時、そこから徐々に金工作家として製作に専念できる環境が整ってきた。
「ここ数年はいい感じになってきたかなと思います」
との言葉通り、40歳を迎えた昨年は、第45回伝統工芸日本金工展で朝日新聞社賞、財団法人美術振興佐藤基金主催の若手金工作家奨励賞で淡水翁賞を受賞。
今、佐故は、日本の杢目金作家の第一人者と言っても過言ではないだろう。
独創のモチーフへと醸成される佐故龍平の視線
初めて佐故の杢目金作品に出会った人の多くは、造形を見事なバランスで包む流麗な模様に瞠目させられる。
その独創的なモチーフはどこから生まれるのだろうか。
「身の回りのなにげないものに美しさを感じて見入ってしまうことがあります。例えば木の幹や枯れ葉の模様、あるいは普通の人なら気にも留めない古いコンクリートの壁や塗装の剥がれかけた鉄冊とか…」
また、全体を見ているとわからなくても、細部を切り取って見るととてつもなく美しかったり面白かったりするのだという。
それは意識して探しているのではなく、もちろん模様に直結するというわけでもない。
しかし、
「その時の、『これ、かっこいい!』という感覚を大切にしています」
こうして作家の目によって見いだされ、日々蓄積されていく様々なディテールが、やがて醸成され杢目金の模様の中に生きているのだ。
創意と偶然が交錯するからこそ魅力を感じる
杢目金という技法は、色目の異なる金属を重ねて作った板を意図的に削り取っていくことで模様を作る。つまり最初は平面に描かれている模様が、金属板を茶器や皿などに造形していく過程で叩き延ばされたり絞られたりすることで変化していくのだ。
作家は、完成した時に模様がどう出現するか(完成物の景色)を充分考え、そこに至る過程を逆に辿ったところから制作を始めて、イメージに近づけていくのだが、
「造形による変化をいくら想定していても、あるいは作りながら最初に思い描いていた完成形に近づけていこうとしても、思うようにならないことも多いんです。でも、そこがいい。時には思いもかけないようなおもしろい変化が起こることもあって、その時は完成のイメージをどんどん変えていくこともあります」
創意を究めて平面で作った模様がそのまま反映されるのではなく、造形した時の金属の “流れ” によって最終的に模様が完成するという杢目金。
「だから完成した時の模様が作為的でないのがいい」
佐故が杢目金を愛する所以でもある。
表現の可能性を追求して、新境地への扉を開く
予測しえない変化が起こることところにも杢目金の魅力を感じるという佐故だが、それと同時に、使う金属の種類、重ねる順番、板の厚み、削り方、削るタイミングなど、制作の過程で限りない選択肢があり、それを自分の感覚と経験によって選んでいくということが、「自分で考え、自分の手で形作るということの意味が感じられるから」大好きなのだともいう。
そんな佐故の最近のお気に入りが、「鎬を立てること」だ。
杢目金独特の複雑な模様をクローズアップするために造形は極力シンプルにするという考え方もあるが、今、佐故は、鎬を立てる、つまり金属特有の鋭いエッジ取り入れたデザインにすることで、作品に立体感や動き、リズムを与え、模様の見え方をより変化させてみようとしている。
「竹の節や波紋などを連想させる有機的なイメージの模様に、鎬を立てるという有機的な造形を合わせることから生まれてくるものがあると思っています」
また、ひとつの作品の中に、密と疎、静と動、白と黒などの「相対する要素」を入れ込んで景色をつくりだすことも意識しているという。
そのために、金属板を重ねるときに上方と下方で使う金属を変えたり、四分一(銀と銅の合金)も割合の異なるものを数種類使うことで色味の幅を増やすといった佐故独自の技法も用いている。
たゆまぬ研究の中から編み出されたこれらの技法によって、模様に奥行を出すことができるようになり、表現の幅が格段に広がった。
「偶発的な要素のある杢目金という表現だからこそ、僕の作品をみた人に『ほかのものとはどこか違う』『これ、なんだかいい感じ』と思ってもらえるようなものを作りたいんです」
この言葉は、佐故の作品の前に立てば、すぐに納得できるだろう。
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「結局のところ、自分は杢目金のうねうね感が好きなんだな、と」
精緻な技法をいくつも重ねて制作を行うかたわら、そんなふうにさらりと語れる自然体も佐故の身上。
だからこそ、佐故の作品は金属工芸や杢目金に造詣が深い人だけではなく、初めて金工をみる人の心にも強く響くのではないだろうか。
3月14日から始まる清課堂での個展タイトルは「積層の景致」
過去の個展では杢目金以外の作品も出展していたが、今回は思い切って杢目金だけに絞った。
「今まで僕がやってきたことをひとつの流れとして、そして僕の今のベストを、杢目金でこんな景色が作れるのだということを見てもらいたい」
佐故龍平の今を体現する杢目金。
訪れる人それぞれの心に鮮やかな景致を映し出すに違いない。
佐故龍平 展覧会 「積層の景致」
展覧会期間
2017年 3月14日(火)~ 3月26日(日) 各日10時 ~ 18時
期間中休み無し
作家在廊日
3月14日(火)
3月18日(土)
3月19日(日)
3月20日(月・祝)
会期中のイベント
・レセプション
2017年 3月18日(土) 午後6時~午後8時
作家を囲み、ささやかなパーティーを行 います。
・対談:佐故龍平 × 飯野一朗 教授 (東京藝術大学教授 工芸科彫金)
2017年 3月19日(日) 午後4時~(1時間半ほど)
展覧会・対談会場
清課堂 〒604-0932 京都市中京区寺町通二条下ル