古川千夏は、広島市立基町高等学校から広島市立大学在学中よりほぼ独学で七宝を学びました。
古川のもつ技法は、数ある七宝の中でも金属素地の表面に釉薬を焼く際に色の違う釉薬が互いに交じり合わないように金属線で隔てを作る、有線七宝の部類に入ります。焼きあがったうつわは、隔ての金属線のはみ出た部分や張力で出来た釉薬の凹凸を全て削りとり磨き、滑らかな面をつくるものです。明治時代に活躍した並河靖之の作など、日本の代表的な七宝作品はこれにあたります。
古川の作品は、釉薬を隔てることを主な目的とした細い金属線ではなく、表面張力によりできた釉薬の盛り上がりと、大胆な抑揚のある肌を作るためにあえて高さ(幅)のあるリボン上の細長い金属板を金属線の代わりに用いています。表面のわずかな陰影が作品に深みを与えています。
また、多くの七宝の表現は目に見える表側に施すことが多い中、古川は作品の裏側にも同様の細工を施し、横から見た姿や手に取った手触りにも少なからず影響を与えています。加えてその隔てが器物に対して非常に微細であることも壮大な手間と時間のかかることを鑑賞者に連想させ、手技ならではの価値を生み出しているよう。
古川との出会いは、清課堂が主催する金属工芸公募展「いまからまめさら」です。大学在学中に数回の応募の後、2016年に同展大賞である山中源兵衛賞を受賞。手のひらにも収まるほどの花をモチーフとしたまめさらでしたが、そのなかに詰め込まれた小さな一つ一つの花びらが成長して広がってゆくかのような力強いものでした。この受賞作品をきっかけに、古川は新たな境地へと進みだしてゆくこととなります。
今回の代表作GEMMEは、花びらが密集したまるで菊の花のように見える作品で、白を基調とした淡い色の透明感が特徴です。前述のいまからまめさら展での受賞作を発展させたものです。
本展覧会が古川の初めての個展となります。才能にあふれた作家により独自に編み出され七宝の新たな世界を、ぜひこの機会に多くの方々に触れていただきたく思います。
山中源兵衛
古川千夏 展覧会「GEMME – 珠玉のうつわたち-」
会期
2018年3月30日(金)~4月8日(日) 各日10時 ~ 18時
会期中休み無し
オープニングレセプション
2018年3月30日(金) 午後6時~午後8時
作家を囲み、ささやかなパーティーを行 います。
作家在廊日
期間中、毎日在廊予定。
但し、時間帯は日によって異なります。
会場
清課堂 〒604-0932 京都市中京区寺町通二条下ル