すずのうつわの魅力 ~素材について~

2019.09.23  コラム

今回は錫(すず)という素材、または錫を用いて作られたうつわの魅力についてお話しようと思います。古来より日本で器物に用いられてきた金属素材五金(銅・錫・鉄・金・銀)のうちの一つですが、なかでも錫はその性質から飲食器によく用いられ長い年月を経て独自の製造方法が生み出されました。

柔らかいが故の使い込んだ美しさ

源兵衛徳利

ご承知の通り、他の金属と比べてたいへん柔らかく傷つきやすい素材です。高いところから落とせばゆがんだり凹んだりしますし、固いもので擦ると傷もつきます。それを弊堂では短所とせず、時代を経てまとってゆく美の一つと考えています。

写真の徳利は、先々代のころから日常で使っているもので、とくに燗酒に用いてきました。私山中源兵衛が幼少の頃、お正月や法事の度、大勢の親戚がうちに集まっては宴会が開かれました。私の役目は錫の徳利にお酒を注いで燗をつけ、お客様へと運ぶものでした。1合入るこの徳利も何本もあって、空いた頃合いを見計らっては差し替えるのでした。今思えば、私のサービス精神はこのころ培われたのだと思います。宴も中盤に差し掛かってくると酔いもかなり回り大酒呑みの親戚たちもふらふらで呂律が回らなくなってきます。そうなってくると徳利を引っ掛けて倒すのも恒例行事で、床にこぼれたお酒を雑巾がけするのも私の大切な仕事でした。

それから数十年が経ち、当時元気だった父や親戚たちも鬼籍に入り盆正月も随分寂しいものになりましたが、今でもこの徳利の凹みを見るたびにその光景が昨日のことのように思いだされます。これがもし、姿かたちの変わらないステンレスやアルミで出来ていたとすると、こんな懐かしい情景は得られないかもしれません。きず、へこみ、汚れひとつとっても大そう愛おしく感じます。

弊堂では、うつわの命を百年の計で考えています。孫の代、ひ孫の代までうつわが受け継がれてゆくように修理やメンテナンスを手掛けるのは当然として、美しく強度の高い特殊な合金素材を用いたり、腐食に強い安定した表面に仕上げるなどして末長くお使いいただけるように様々な工夫を凝らしています。

*ご注意
柔らかいからと言って人為的に幾度も曲げたり凹ましたりすると、金属疲労が起こりひび割れ等破損しますのでおやめください。

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