「皆具 葡萄唐草文」は、特注品としておつくりした、黄銅・鍛造・煮色仕上げの皆具(かいぐ)です。東京にお住まいの個人のお客さまよりご依頼いただき、何度もやりとりを重ねた末に、2年の歳月をかけて完成いたしました。
写真をご覧になって裏千家所有の「仙叟好夕顔皆具(せんそうごのみゆうがおかいぐ)」を思い浮かべた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
茶の湯において皆具とは、水指(みずさし)・杓立(しゃくたて)・建水(けんすい)・蓋置(ふたおき)の4点が揃っている状態を指します。台子 や長板に飾られる格式の高い茶道具です。中でも裏千家四代当主・仙叟宗室が愛した「夕顔皆具」は、歴史的にも価値が高い逸品。優れた工芸品を数多く残した仙叟の “好み物” の中でも、とりわけ有名です。お客さまは当初、この「仙叟好夕顔皆具」の写しをご所望されていました。
仙叟宗室:せんそうそうしつ、元和8年(1622)~元禄10年(1697)
ご依頼を受けた際、弊堂がひとつのご提案としてご紹介したのが、名品の良さを継承しつつ独自の表現や技法、味付けを加える方法です。打ち合わせを重ねる中で、制作の主要テーマを「古き良きものを伝承していくこと」「新しい時代に新しい伝統を築いてゆくこと」の2つに絞りました。
色合いや形などの佇まいは可能なかぎりそのまま、彫刻には新しいモチーフ “葡萄” を取り入れています。夕顔と同じ蔓草模様で連綿と永く絶えないつながりを表わしながら、荒れた乾燥地でも多くの実をつける葡萄ならではの力強い生命力や繁栄も表現しました。水差しの蓋のつまみには、可愛らしい銀の葡萄をあしらっています。女性の茶人がご利用になるということで、大きさは仙叟好より一回り小ぶりにしました。女の方の小さな手にしっくりと馴染むサイズです(茶道具の名物・名品と言われるものはほとんどが男性向けのもの)。
使い手や使う時代に合うように手を加えて受け継ぐことで、工芸品を今の暮らしの中で無理なくご利用いただけます。
200年、500年先にも名品として受け継がれてゆく作品となることでしょう。