ホテルフジタよりご提供いただいたスペースは、意外と弊堂の作品展示の難易度が高いように思えました。無機質で『色』がほとんど無い弊堂の作品と、すでに赤と木の色を基調とした室内装飾がなされている空間です。この組み合わせは私の経験上、相性が非常に悪いのです。作品の表面に周囲の風景が映りこみ、錫のもつ質感や色合い、かたちのシルエットをうまく表現できません。
余談ですが、この企画はかなり気合いを入れています。中京に生まれ育ったせいか、ホテルフジタさんは私の憧れでもあり誇りでもあり、ここで展示をさせていただくことが私の人生の一つの節目だと考えています。私が40歳、このホテルが創業40年、私の両親が結婚したのがちょうどホテルフジタが完成した年でもあります(残念ながらここで式を挙げたかったらしいのですが、完成が間に合わず系列の京都国際ホテルで挙げることとなったそう)。親族もここで式を挙げたものが何人もいます。
先ずは全体の構想から。風景の映り込みを極力押さえるため、「黒」で全体に装飾することに決めました。会場造作に必要な材料をそろえたり、説明文などの配置を決めたりするのにはこの模型がすごく役立ってくれました。建築を専攻するチームの一員が一晩で作ってくれました。
模型では判りにくい作品の配列は、図面を基に構想を練ってゆきます。今回は作品だけでなく、製作に用いる道具や材料も展示します。
元ブティック(現インターネットルーム)の壁についている鏡や室内装飾は、新たに壁を作り大胆に覆い隠します。薄いベニヤ板に黒い紙を貼ってゆきます。大きな板に紙をきれいに張るのは、4人がかりの大仕事。イベント業者に工事を頼むのではなく、すべてチーム員の手づくりです。
普段はギャラリーとしている弊堂の蔵が、この日だけは作業場になりました。今の生活ではまず見かけることのない弊堂の製品たち。それぞれに判り易く説明をせねばなりません。展覧会慣れをしている学生達は、手際よく発泡ボードを切り刻んでキャプションを制作してゆきます。
会場現場エントランスでは、展示台の作り変えをしました。もともと設置されている台は、段差のある変わったかたちをしています。大きな彫刻ならともかく、小さな生活工芸品をつくる弊堂の品には合いませんでした。
ここでは、百貨店の催事場で数え切れないほど展示をしてきた知識が役に立ちました。布と板だけで、高級感あふれる立派な展示台となります。
チーム員の一人は演劇の舞台装置を普段から作っているせいか、まるで大道具の裏方のように壁を上手に手際よく組み立ててゆきます。
会場にはちょっとした仕掛けがあります。来場のお客様に普段の工房の雰囲気を実体験していただくため、”鎚の音”を会場で流しています。その機器の操作方法をホテルフロントのスタッフに理解していただくため、解かりやすい「取扱説明書」を手書きで作っています。
28日(日)の設営準備のさなか、京都ブランド研究会DIKのコアメンバーである、リブアートの谷口一也さんに激励に来ていただきました。近いうち、私と同じくここで展覧会をしていただく予定です。
展覧会前の記事はこちらをご参照ください。
https://www.seikado.jp/195