ひんやりと手に馴染む肌合い。
空気と混じり合うことで柔らかさを増す、静謐の光沢。
数百年の単位で刻まれてきたその小傷は、そのもの自身の記憶だ。
このたび 5月8日より、金属工芸作家による展覧会「ちっちゃくてかわゆい香炉てん」を清課堂ギャラリーにて開催致します。
26人の精鋭作家が“香炉”を巡り、その発想と技を一度にご覧頂けます。
●丸山祐介―ものづくりを愛する原点
出品作家の一人である丸山祐介さん、そんな金属工芸の奥深さに魅せられた一人である。
幼い頃は、ミニカーが大好きだった。
手で触れ、動かし、実体を感じることができる、この玩具が楽しくて仕方なかった。大学時代に偶然出会った金属工芸は、久しく忘れていたその感覚を思い出させてくれた。
もともとはグラフィックを目指していたが、転向。形ある金属の確かな手触りに、夢中になった。
それだけではない。学べば学ぶほど、世界は広がった。
金属の種類と性質の多様性、加工、造形の可能性・・・
「その奥深さや技術に、すっかりハマってしまった」
ものづくりを愛する原点は、いつも、そんなシンプルなことなのかも知れない。
●“家”が紡ぎだす物語
住居の二階を使った畳一間の工房には、ここのところ制作に没頭している、親指サイズの小さな“家”が並んでいる。
例えば箱型の作品では、その“家”がフタのツマミの部分にちょん、と収まっている。
そんな“家”シリーズを始めた切っ掛けは、グループで行った『箱展』。
「一番大きい箱は建物なのではないか」というイメージを形にしたその作品には、“岩場にある家”、“山の奥にある城”といった、丸山さんの肩の力を抜いた遊び心が詰まっている。
学生時代、当時の先生に言われた。
「技術はもう十分だ。お前がやりたいのはそうじゃないだろ、自分のやりたい事をもっと押し出せ!」
その言葉の意味が今、ようやく分かり始めてきたと言う。
テクニックを押し出せば、その分表現は固くなり「カチカチの作品」になってしまう・・・。
それだけに、『箱展』を見に来てくれた知人の、「軽くなったね」という一言は嬉しかった、と顔をほころばせた。
●自分らしく、自分の世界観で
話の中で何度も繰り返されるのは、このキーワード。
“金属工芸”という伝統を軸に、自由な発想で次々と自分の世界を表現している丸山さん。
「そうは言っても、自分の世界観はまだまだ出来てないですね、ようやくセカンドステージという感じで」
はにかむ彼は、しかしながら、決して過大評価することなく等身大の自分を見つめ続ける。
「金属工芸の世界は自分のイメージでどんどん発展していける。」
「いつかは金属という素材だけに留まらず、様々な素材を用いた表現をしたい」と自分の可能性を語る笑みは、ミニカーに夢中だった少年の頃を思わせる。
「小さくて、コロンと」したイメージ、今回清課堂ギャラリーにて出品される香炉の頂上には、ちょんと “家”が据えられる。
「小さいながらも家としての作り込みをしていこうと思っているので、ぎゅーっと寄って見て欲しい」と丸山さんはその思いを語る。
急な斜面が切り立つ香炉の山の上で、ぷかぷかと煙を吐き出すちっちゃな“家”。
そこからはいったい、どんな景色が見えるのだろう・・・。
彼の作品ごしに、鮮やかな情景がみえた。
金属工芸作家:丸山祐介
広島市立大学院芸術学部博士前期課程修了 。
現在は神戸芸術工科大学で実習助手を務める傍ら、独自の作品づくりをしている。
2002、2004年伊丹国際クラフト展入選。
北海道伊達市のカルチャーセンター・消防防火センターに作品が展示されている。
(2007年現在)
タイトル:「金工作家26人それぞれの容・ちっちゃくてかわゆい香炉てん」
期間:5月8日 (火) ~5月19日 (土)
時間:午前11時~午後6時 (最終日は5時まで)
場所:清課堂ギャラリー
電話: 075-231-3661
出品作家:
金子 透 信ケ原 良和
呉 旻映 加藤 雅也
伊藤 祐嗣 加藤 浩史
服部 睦美 有季 フェアディナンセン
植田 千香子 里村 茂是
中島 凪 渡邊 恭成
毛利 玲子 山田 瑞子
山本 昌史 池田 治彦
下山 普行 田中 千絵
西川 美穂 村上 奈弥
梅澤 豊 佐故 龍平
中村 大朋 丸山 祐介
中谷 美穂 秦 世和