展覧会開催によせて

2010.06.19  展覧会

京都造形芸術大学に当ギャラリーを使った斬新な企画を、とお願いしたところ、選りすぐりの学生が集められ、これだというものが提案されました。

 

それは見事に核心を捉えており、彼等は紆余曲折を繰り返しながらも十分にこの企画を練ってこられました。古(いにしえ)より解読され表現されたこの壮大で難解なテーマに対して、彼等は2ヶ月をかけてひとつの答えを出してくれました。
私共はこの展覧会を、誠意を持って世に問いたいと思います。
発表を迎えるにあたり、藤井秀雪先生、山下里加先生におかれては、彼等と本企画をここまで導いてこられたこと、あらためて感銘と深い感謝の意を表します。

清課堂 七代 山中源兵衛

美器展フライヤー


清課堂7代当主山中源兵衛氏と京都造形芸術大学の学生との取り組みは、当主自らお越し頂いた2009年度京都造形芸術大学卒業制作展で、学生たちの瑞々しい感性と発想に出会われたことがきっかけでした。

折りも折り、店舗併設のギャラリーのスタイルがやや固定化していたことから、節目となる創設30周年を機に、学生と協同でギャラリーに新しい風を送ってみ たいとの希望が大学に寄せられました。そして、当主の熱い思いに共鳴した5名の学生が参集、プロジェクトチームが起動し、本年1月より活動をスタート、4 月以降、本展覧会の企画に着手しました。

170余年続く老舗の当主と未知数の才能を持った学生たちの組み合わせ、それ自体が革新を希求する老舗ならではの姿勢を見ることが出来ます。学生たちも、 表面的な理解では錫器の真の美しさと魅力を伝える展覧会は企画出来ないと考え、春休みを返上、見習いとして店舗に通い、錫器に触れ、親しみながら、表層だ けでは見えない、奥に潜む美を感じとるための貴重な経験を積み重ねました。錫器の美が熟成された悠久の時間から思えば、甚だ短期間に過ぎませんが、彼らの 想いは今回の展覧会テーマの一言一句に表されています。

そもそも展覧会を開く意義とは何でしょうか。それは固定されたモノのイメージに、新たな視点を投影させることによって、人の感覚を覚醒させることにあると 考えます。これまでなかった新しい作品を発表すること然りですが、たとえそれが見慣れたものであっても、思いがけない視点を提示することによって、より深 くそのものを見極めることが出来、胸がすくような発見を呼び覚まします。

とはいえ、錫器の究極の美に触れた学生たちの精一杯の「見立て」に対し、通俗的概念に左右されることなく、テーマの背景にある純粋な想いに革新への希望を 託された、清課堂7代当主のおおらかさと、老舗の懐の深さに心より敬意を表すものです。ご来場の皆様方には、テーマを通して見えてくるであろう錫器が放つ 官能の美に、しばし心酔して頂ければ幸いです。

2010年6月吉日

学校法人 瓜生山学園
京都造形芸術大学
ものづくり総合研究センター
主任研究員
藤井 秀雪