小山泰之 金工展 Yasuyuki Oyama Metalwork Exhibition

2010.03.31  小山泰之 展覧会

「小山泰之 金工展」ご報告

清課堂七代 山中源兵衛

平成22年3月30日(火)~4月10日(土)開催された、アルミニウム工芸作家の個展「小山泰之金工展」は、好評のうち無事終了いたしました。以下の通り、展覧会のご報告申し上げます。

小山泰之氏と初めて出会ったのは、彼の個展の前日でした。彼の第一印象は、シャツを首元までボタンをきっちりしめパーマは朝一番丁寧に整えたことがうかがえる、小柄で清潔感の漂う青年でした。

彼になぜアルミニウムを選択したのかと尋ねてみたところ、予期せぬ返事が返ってきました。周囲にアルミをやってる作家がいなかったからだそうです。素材の選択は物理的理由から、用途や美の追求という目的に対しその手段として選択される場合が多いと思います。しかし彼にとっては、素材そのものも目的や動機のひとつです。私が作品を手にとって見て最初に驚いたことは、従来の金工品の常識では考えられない、素材の持つ「軽さ」でした。

展覧会は、大きくいくつかのステージに分けることとなりました。

メインとなる蔵展示場は、代表作「BEND series」を展示しました。ここは弊社創業当時より伝わる土蔵を改良した、高い天井、ベンガラ色の柱が特徴的のスペース。ここでは彼の近年のシリーズで、曲げる・折るという行為そのものが体を表している作品を集めました。ここでは、多くの来場者が既視感をもってこの作品を視ていたようで、作品からそれぞれ、織物、染物より伝わる美しさと似ている気が感じられました。それら気は、着物から感じる柔らかさや軽さ、紳士服の襟元にある礼儀正しさではないでしょうか。この「BEND series」は30cm四方以上の大きいものから、手のひらに載るような小さいタイプまで用意されていました。

和室を使って展示したインスタレーションは、彼の考え(思想や価値観、哲学)をあるデザインモデルを通して、他に何もおかれていない畳の上に展示したものです。ある工業デザインの歴史的作品と、その作品に合わせて作られた彼の器物を、重ねあわせたり並べたりと、彼自身が実際に来場者と一緒になってものの佇まいを感じ共有しました。今回説明的な展示にあえて取り組んだ彼は、昨今のモノが売れない社会にあって、モノに対してさほど興味の無くなった日本人に危惧感を抱きこの展示を思い立ったのだと思います。このスペースからは、彼のものづくりにおけるゆるぎない基軸が垣間見えた気がしました。

茶室に展示した「Bowl series ,Fold series」。

ここでは、金属工芸の伝統的技法「鍛金(たんきん)・金鎚で打ち絞り成形する技法」を用い読み解きながら、その技法に依りかかることなく流行や生活様式の移ろいに左右されることの無い、「美しい普遍的なかたち」を提示してくれました。アルマイト処理による洗練された色彩、整えられたかたちは、熟練し研究を重ねた技術的秘訣だけでない、優れたバランス感覚によって生み出されました。

4/3 17:00トークショー。定刻になりぞくぞくと詰め掛けた来場者は、彼からそれぞれの作品に対する解説をしっかりじっくりと聞き込みました。斬新かつ研究を重ねた技法には、来場のクリエーターたちから多数の質問が寄せられました。それまでおぼろげに作品から見え隠れしていた彼の思考が、お話を聞くことによってくっきりと浮かび上がりました。その後、参加者一同は近くに位置するC.A.J.ギャラリーへと場所を移し、ちょうど同じ時期に開催されていた彼のジュエリー展を見学しました。彼から作品解説いただいたあと、参加者の交流会が催されました。

このほかにも清課堂店内には、彼のアトリエを代表する定番小品シリーズが酒器や花器、食器などがおよそ15点、全体では40点ほどの大小作品が展示されました。

 

97oyama

彼の近年を代表するシリーズ、BEND。 アルミニウム板を『折る』ことによる造形美。 見る人には、織物のようとも評されることが多かった。 多彩な色彩を見せるが、これは着色や塗装、めっきの類とは一線を画する、染色だと彼は言う。電子顕微鏡レベルではアルミニウムの素地表面に数多くの孔があいており、その中に染料の元ととなる顔料成分が入り組んでいるのだそうだ。 この展覧会では、手のひらに乗るほどの小さいものから、一抱えほどある大作までおよそ40点ほどのBEND新作にとりくんだ。

96oyama

開催期間中に行われた、小山泰之によるギャラリートーク。陳列品解説を主に、彼独自の製法やモノヅクリへの思想・哲学をお話いただいた。 当日会場にはおよそ30人の方にご参加いただいたが、そのうち半分ちかくは関西在住の金工に携わる職人や作家だった。参加者はそれまでほぼ見たことのない、アルミニウムの加工や染色について、丹念に質問を重ねておられた。 小山の口からは、技法は美しい形を追求するための手段、と割り切っている大変興味深い意見を聞いた。

95oyama

会場風景