2015年3月から5月初旬まで、およそ2ヶ月の間に開催した展覧会「Powerful Expressions」は、山中源兵衛が着眼した金属工芸の作家3人による “表現方法” を見所とし、3期にわたって1人ずつ紹介する展覧会となりました。
彼らの作品はそれぞれに独自の肌触り、視覚効果、構想を持ち備えた金工作品です。この企画展を通し、金工の世界の幅広さ、奥深さを感じとっていただけたことと思います。展覧会を振り返り、あらためて個々の作家とその表現をご紹介します。
□ 木瀬 浩詞 / Kise Hiroshi 罅-ひびり-
2015年3月3日 [火] – 22日 [日] (レセプションパーティー 3月7日 [土] 18時 ~ 20時 )
過去に清課堂にて個展を開催している木瀬。すでに金工においては17年のキャリアをもち数々の公募展での受賞歴をみると、彼のものづくり人生は泰然としているように思えますが、ここ数年はこれまでの大作の発表よりも小品、または商品に近いクラフト作品に取り組んでいたようです。
かつて見せてくれたダイナミックな彼独自の作風をぜひ今いちど清課堂のお客様にご覧いただきたく、この企画展の開幕をかざるトップバッターを担ってもらいました。今回は彼の新たな挑戦ともいえる罅(ひび)を表現した作品群を中心に、年代とともに変化してきた彼独自の表現を一堂に見ることのできる展覧会となりました。
□ 加藤 貢介 / Kato Kosuke 鐡層-てっそう-
2015年4月7日 [火] – 12日 [日] (レセプションパーティー 4月11日 [土] 18時 ~ 20時 )
加藤は、清課堂主催公募展「いまからまめさら」の記念すべき第一回目(2012年)において、大賞である山中源兵衛賞を受賞した期待の若手金工作家です。すでに清課堂とは、加藤貢介×山中源兵衛の共同製作品 “曜変木目鉄(ようへんもくめがね)” を発表していますのでご存知の方も多いかと存じます。
彼が得意とする素材「ダマスカス鋼」は、木目状の文様を持つ鋼(はがね)の一種。鉄を主成分にする合金で、鉄の持つ性能が高められると同時に、鍛え研ぐことで独特の美しい文様と色を出すことが出来る特殊な鋼です。この素材を駆使し、自在に文様を操り独自の造形、表現を確立しました。
インスタレーション “cube tenkaizu” は、10センチ立方に切り出したダマスカス鋼の塊を版にし、6面ある波紋を雁皮刷技法を用い構成した作品。
鋼を造形としてだけでなく、凹凸のある美しい肌模様を版画にした新しい取り組み。
非常に固くい特性を活かし、音響効果を狙った水盤。
手水の雫が落ちる度、さながら水琴窟のような美しい響きを奏でます。
□ 岩本 紀羽 / Iwamoto Kotoha ぼうじゅん-矛盾-
2015年4月28日 [火] – 5月3日 [日] (レセプションパーティー 4月29日 [水・祝] 18時 ~ 20時 )
2014年に神戸芸術工科大学大学院を修了したあとすぐ、金沢卯辰山工芸工房に入所し現在も金属工芸の研究に勤しんでいる岩本は、金属の持つ鋭利で攻撃的な心証お器物をキャンバスにつかって表現している。この清課堂での企画展が、岩本の初個展ともなりました。
展覧会タイトルの “ぼうじゅん-矛盾-” は、岩本が抱えているであろう矛盾する攻撃的な思考と身を防御する思考を表した近年の実験的な取り組みに対しつけたものです。
代表的シリーズ作品、“棘をもつ皿” 。まるでおろし金のように触れると痛く、触覚を体験しながらも、見る方向によって肌が変化し違って見える視覚効果も狙った近年取り組んでいる作品。展覧会期間中、銅板に鏨(たがね)を用いて目を立てるワークショップを行いました。
すでに独立し独自の技法や表現を確立している先の二人とは違い、岩本は、まだ研究生として日々それらを模索している最中。落ち着かない製作環境や、揺れ動く心境をもこの攻撃的かつ排外的な取り込んだかのよう。この作家の行く先を見守ってゆきたいと思います。
(Written by Yamanaka)