「野草の一瞬を金属に込める」 金属工芸作家―鈴木祥太

2016.03.07  インタビュー 展覧会 鈴木祥太

散歩の途中、野草の美しさに足を止め、目を凝らし、手に触れ、観察する。写真を撮ることはあるが、スケッチはあまり描かない。記憶を脳と身体に染み込ませ、小さな植物から感じるエネルギー(生命力)と一瞬の美しさを金属に込める。

 

石で色を表現できなかった日本人がたどり着いた日本独自の文化で植物を創る

鈴木祥太は、宮城県で生まれた。庭いじりと物を創ることが好きだったが、柔らかな粘土は嫌いな少年だった。大学時代は山形県で過ごし、金属と向き合うようになる。金属の色を変化させる技術は日本独自の文化なのだそうだ。ヨーロッパでは様々な色の石が取れるため、それらを使い、銀・金以外の色を表現してきたが日本ではそれがかなわなかった。そのため、日本では産出できる金属から色味をいかに引き出すかに、多くの日本人が時間を費やしてきたのである。その結果、江戸、明治において、金属の色を変化させる日本独自の文化へたどり着いた。鈴木は、その面白さにのめり込んでいく。

2010年、彼はタンポポ(蒲公英)を制作した。

「花びらが多い花が好きです。造形美としても美しいんですよね。限りなくリアルに創るのであれば、金属ではなく、樹脂や紙素材の方が向いています。だとすると、金属の素材でのリアルな表現とはなにか…常に考えています」

金属素材の柔らかさを追求し、叩いたり、曲げたり、削ったりしながら、質感をリアルに近づけていく。そこに鈴木が美しいと感じるバランスで再構築し、金属の植物が現れる。

蒲公英

 

綿毛も生命の「循環」の一部

大学卒業後、働きながら金属の植物を創り続け、2年程前、縁があって京都に移住した。

「東北以外の場所で物を創ってみたいと思っていました。京都に移住したことで、散歩で出会う花も変わりますから」

作品のモチーフの一つ「シロバナタンポポ」は関東以西に分布し、東北には咲いていない。花だけではなく、綿毛のタンポポ(蒲公英)も制作している。花床に刺し込まれた綿毛は圧巻である。使う素材は、日常では目にすることはない細い金属だ。使用する素材は市販されていないため、それを作る所から始まる。極細のワイヤーを花床に一本ずつ埋め込んでいく作業は、かなりの繊細さが求められる。花は咲いている時だけが「生」ではない。芽が出て花が咲き、枯れ、種を残し、また芽が出る。生命の「循環」なのだと鈴木の作品は語り掛けてくる。

鈴木祥太

 

好きな声しか流れない工房で、金属と向き合う

一軒家に組み込まれた屋根付き駐車場を改造した工房にツンとした匂いが漂う。黒い鋳鉄の半球(ピッチボール)に敷かれた松脂(まつやに)にバーナーで火をあぶる。熱で粘りつくように柔らかくなった松脂の中に、一枚ずつ切り出した葉の形をした銅を埋めて固定させる。鏨(たがね)を当て、大学時代から使っている小さな金槌の「福槌」で叩き、葉の筋を入れていく。

「銅の葉には、自然界の葉の筋よりも線を強めに入れます。そうすることで、植物の荒々しさが際立ってきます。筋の数は決めていません。なので一つも同じものにはなりませんし、数も筋の強さも違います」

ピッチボールが置かれている作業台は、50年以上前、鈴木の母親が子供の頃に使っていた机である。鈴木が引っ越しする度に、この机も一緒に移動し、彼の制作を支えている。机の上に置かれた小型のデジタル音楽機器とスピーカーからは、日本人アーティストのヒップホップやジブリの映画音楽など様々なジャンルの音楽が流れている。

「音楽もですけど声が重要なんです。声フェチなんでしょうかね(笑)。嫌いな声が入っていると作業が乱れるんです。だから声が選べないラジオはかけないです」

鈴木の好きな声が流れる工房に、金属を叩く音が響いている。

鈴木祥太

 

日々の散歩目線が変わる作品

鑑賞者によって花に興味を示す人、葉に反応する人など、それぞれの植物に反応する部分が違うそうだ。

「もちろん、作家として見て欲しい部分はあります。でも、それは、作家が強制することではないですよね」

そう言いながら、鈴木はギザギザしたとげ状の葉に触れる。工房内の壁に設置された棚には、タンポポだけではなく、様々な植物が仕上げを待っている。春から初夏に花が咲く野草「オオイヌノフグリ」、鈴木が海外のギャラリーへ進出した国の一つ「スコットランド」の国花で、秋の野山を彩る「アザミ」、岩の上にも生える「ジシバリ」も、鉄の上で銅と銀の花を咲かせている。

「漢字では “地縛り” と書くんです。地を縛りながら、根を広げて張っていくところに、野草の力強さを感じますよね」

眺めているうちに鈴木の散歩目線が想像できることも鑑賞の楽しさの一つである。

「鴨川の川べりも好きですが、買い物袋を下げ、道端の草花を探しながら歩く時間も好きです。最近のお気に入りは寺町通ですかね。雑草感が良いです。」

鈴木祥太の作品を眺めた後、街に出ると、きっと見過ごされていた野草の美しさと力強さに改めて気づかされるだろう。芸術が日々の目線を変えてくれることがある。

地縛

(インタビュアー:イシコ)


 

鈴木祥太 金工展「循環」

鈴木祥太は、金属を素材に、自然に咲く様々な植物が、芽を出し花実をつけ、種を残し、また芽が出る生命の循環のその時々の「一瞬の美しさ」を表現しています。彼は、自身と金属という素材に調和を感じ、あえて金属という硬い素材で柔らかな植物を緻密に表現する精巧な技術は、近年の金属工芸界においても稀有な存在です。
鈴木祥太 金工展「循環」の詳細はこちら

 

会期

2016年(平成28年)3月15日(火)~ 3月27日(日)

※会期中、休廊日無し 各日 10時 ~ 18時

期間中の作家在廊日

3月18日(金)・19日(土)・20日(日)・21日(月・祝)・26日(土)・27日(日)

会期中のイベント

・レセプション 3月19日(土) 18時 ~ 20時

会場

清課堂 京都市中京区寺町通二条下ル(店舗案内
TEL 075-231-3661

 

展覧会詳細・問い合わせ先

email: gallery@seikado.jp  担当:仲野