旧来弊堂で扱う『錫製品』の地金は、錫純度97%以上のものを使用していました。残りの2%前後は不確定要素で、さまざまな金属素材が混入しています。これは江戸時代から続く、錫専門工房ならではのリサイクル(地金再生)システムによりました。
古いもの買取り・下取りし溶解し、さらに純度の高い地金を加え新しいモノを生み出す、材料を無駄にしない再生システムが永く続いてまいりました。
ご承知の通り、昨今社会の無毒傾向が強まっております。鉛をはじめ毒性の強い素材の排除が世界的に進んでいます。直接的な人体への影響を防ぐことが第一の目的ですが、仮に人体への影響が少ない場合でも、その排除は環境への配慮を考慮した社会の流れと言ってよいでしょう。
■弊堂では、夏以降新しく製造された錫製飲食器にはおよそ「錫97%銅3%」、「錫97%銀3%」、という2種の特殊な新素材を主に用いて製作しています。(これら二種は、用途や見た目により使い分けています)。いずれも非常に高価な材料ですが、現時点では高い水準の安全性・環境性を持つと思います。 *注) 写真は、マレーシアより輸入した99,9%の錫地金,通称スリーナインです。これに、銅、もしくは銀を溶解して混ぜ合わせます。錫99,9%のみという素材では、弊堂の工法では物理的に成形が困難で、かつ粘りが無く強度不足になりほとんど用いません。
■さて、実は金属製食器の安全性にたいし、国の明確な基準はありません。弊社では、陶磁器・ガラス器向けに策定された食品衛生法溶出基準を自主的な目安として取り入れています。食品の中でも強い酸性のものに触れた場合を想定し、溶け出す鉛とカドミウムの人体に影響ない値を定めています。
<食品衛生法(現行) : 陶磁器・ガラス器・ホウロウ器>
~4%酢酸:24時間~ 深さ 25mm未満 17.0μg/cm2以下 深さ 25mm以上 1.1リットル未満 5.0mg/リットル以下 1.1リットル以上 2.5mg/リットル以下 碗・マグカップ 5.0mg/リットル以下 今後は国際的な流れにあわせ、上記法律も強化されるようです。
自社製品だけでなく、取り寄せ作家作品、仕入品についても地金管理を徹底し、あわせて飲食器への鉛溶出検査を随時実施してまいります。
つきましては現在、古地金、古品の買取・下取りを中止させていただいております。 現状は弊堂にて古地金をお預かりしたあと、業者へ持ち込み精錬します。精錬には多大なコストがかかるためいままでのようなリサイクルが出来ません。どうぞよろしくお願いいたします。
また参考までに、生体への影響を考慮した金属器に対する国の規格をご紹介します。
<<参考資料:食品衛生法>>
~器具若しくは容器包装、又はこれらの原材料一般の規格及び原材料の材質別規格より、抜粋~
■原材料一般の規格
1.器具は、銅若しくは鉛又はこれらの合金が削り取られるおそれのある構造であってはならない。
2.メッキ用スズは、鉛を5%以上含有してはならない。
3.鉛を10%以上又はアンチモンを5%以上含む金属をもって器具及び容器包装を製造又は修理してはならない。
4.器具若しくは容器包装の製造又は修理に用いるハンダは、鉛を20%以上含有してはならない。